ジオパークの「保全・保護」に関する方針について
はじめに
前回の記事では、以下の2つの視点からジオパークプログラムの概念について考えた。
プログラムを主導する2つの団体の意思について、
少し深堀りした結果、
『全ての事が地質の「保全・保護」をベースにしている』
と言う点で、それぞれの意志が共通している事がわかった。
この「保全・保護」について、どの様な方針で活動しているか?
が、現状のジオパークの課題について考える鍵となる。
そこで、今回の記事では、ジオパークの「保全・保護」活動の方針について
解説していくことにしたい。
ジオパークの「保全・保護」活動の方針について
達成したい事(優先順位)
こうした2つの視点があることから、
ジオパークで達成したい事についての優先順位は様々ある。
しかし繰り返しになるが、ジオパーク活動に関して、
『全ての事が地質の「保全・保護」をベースにしている』
と言う点では共通している。
保全・保護の上に、
- 教育
- 防災
- 地域振興
が成り立っている。
その様子を、下図に示した。
図に示した様に、
教育・防災・地域振興の内、どれがベースにあるというわけではない。
教育は防災や地域振興抜きに成り立たず、
防災や地域振興も同様にそれだけでは成立しない。
ジオパークの活動は、
これらの要素を活用していき、
持続可能な開発に有効活用していこうと言う活動である。
ただし、活動する上で、
どの様な活動をしていきたいか方針を決める必要がある。
多様な意見を無計画に進行させてしまっては、
見当違いの方向に活動が脱線してしまう。
次節では、ジオパークの方針について解説する。
「保全・保護」の方針(枠組み)
そこで、方針を決める上での枠組みが必要になる。
その方針は、日本ジオパークネットワークの作業部会で
「日本ジオパークネットワークの自然資源保全に関する指針」
https://geopark.jp/activity/education/pdf/20180301.pdf
としてまとめられている。
少し噛み砕いて、内容を見てみよう。
下図に、活動方針を決定する枠組みについての概念図を示した。
左から
- 「要望・意見・素材など」
- 「仕組み」
- 「取り組み」
の順に意思決定がなされていくイメージを示している。
左側の「要望・意見・素材など」は一次的なアイデアで、
そこから取捨選択して、
右側の「教育」や「地域振興」などの活動として実行する。
取捨選択を行うのは、
図の中央にあるジオパークプログラムが行う。
ジオパークプログラムは、地球科学的な視点で行う。
地球科学的視点で行うことにより、
人の感覚よりも長い時間スケールで現象を捉える事ができる
(例えば、災害や生物多様性、気候変動、海洋汚染の問題など)。
多様な意見を、地球科学的な観点で捉えて緩衝し、
フィルターを通すことで、長期的な活動とすることができる。
この様な長期的な活動を行うことで、
無計画な開発や消費を未然に防ぐことができるだろう。
また、無計画な開発や消費に歯止めがかけられるかもしれない。
こうした活動こそが、将来を見据えた持続的な開発と言えるだろう。
まとめ
この記事では、ジオパークの「保全・保護」に関する方針をまとめた。
その上に、「教育や防災、持続可能な開発などが積み上がっている。」
と言うイメージを紹介した。
日本ジオパークネットワークの作業部会でまとめられている。
作業部会の考えを基にして、
「地域の意見を、
地球科学的な知見を持って集約し、
活動につなげていく。」
とする考えを紹介した。
いくつかの疑問が残ると思う。
例えば、地域の意見や行政・NPO・研究機関の意見など、
様々な意見が出ていることなどをまとめていく必要がある。
次回の記事では、その様々な意見を包括する
「大地の公園」
と言う言葉について考えていこう。
今日はここまで
*1:
地質学(地球科学)に関係する分野の裾野は時間的・空間的に広い。
日本地質学会では、地質学について以下のような学問分野であると宣言している。
その内容を以下に示す。
「地質学とは18紀末に生まれた言葉"Geology"を、
明治初期に地質学と訳されたことばです。
Geoとは地球であり、logyとは学問を意味するので、
その言葉に込められた思いは「地球を科学する」ことです。
しかし、Geologyという科学が生まれて以降、
19世紀~20世紀前半にはもっぱら
固体地球表層の地殻の岩石や地層そして化石などを対象として
地球の歴史や現象を包括的にあるいは個別的に研究する ことを主としたので、
そのような分野に対して限定的にGeologyというようになりました。
しかし、20世紀後半に、
人類は史上はじめてプレートテクトニクスという科学的包括的な地球観を得ました。
以来、地球に関する科学をGeosciencesと一般には呼ぶようになりました。
地球諸科学が融合して「地球を知る」作業が必要となったのです。
このことはそもそものGeo-logy成立の精神です。
今後、地質学は切迫する地球環境問題や大規模自然災害の解明などに答えながら益々発展する科学です。」
2 つの視点から見たジオパーク
はじめに
前回の記事では、ジオパークプログラムについて
それぞれ異なった、2つの視点からの説明を紹介した。
結局の所、
- 言葉1つ1つの意味や背景がよくわからない。
- もっと端的に表現したい。
という事で、少し深堀りしていこうかと思う。
2 つの視点
それぞれ立場の違う組織なので、視点が異なる。視点は異なるが、
冒頭にGeo について触れ、
その後に教育・実用(例えば、持続可能な開発・楽しみ)に関して述べている点
では共通している。
この記事では、ジオパークの説明について共通している点と異なっている点を、それぞれの観点から解説しよう。
日本ジオパーク委員会の視点
まず、日本ジオパーク委員会の説明を見てみよう。
彼らの使う"Geology"(地質学的)と言う言葉は、
"Geo"(ラテン語で地球・地上などを意味する接頭辞)と"logy"(学問を意味する接尾辞)を組み合わせてできる。
地質学(Geology)という言葉がキーワードとして出てくる。
それは、UNESCO はガイドラインの中で、
「ジオパークでは、地質学的な重要性がなければならない。そして、それは地球科学に関連する分野の科学専門家によって独立して評価される。」
と述べている事からも重要な事が分かる。
彼らは、学術的に重要な地質を保全して、将来に残していこうと考えている。
重要な地質を将来に残すために、
彼らは地域に誇りや愛着を持ってもらう様、
啓発活動を行っている。
ジオパークの枠組みの中では、地球科学の専門家の影響力が大きい。
その理由は、ジオパーク発足の動機が関係する。
そもそも、ジオパークはヨーロッパの地球科学者たちが学問上重要なサイトが、
無計画な化石や鉱物の売買などの人間の活動によって、
地球科学的に価値を持つ環境が破壊されていることに危機感を持ち、
地質資源の保全を考えたことによって活動が開始された(Eder and Patzak 2004, Zouros 2004)。
地球科学者にとってここで言うサイトとは、
学問上必要であると言うだけでなく、
後輩の育成の場でもある。
彼らは先人からその地域の地球科学について学び、
それを後世に受け継いでいる。
また、生活の大部分をその地域で過ごす場合もあり第2 の故郷とも言える。
そのような場は、地球科学という学問のみならず、人類が残していくべき文化そのものである。
地質という地域の遺跡を研究対象として、
それを保全することによって人類の持続可能な開発につなげると言う行為は、
UNESCO プログラムと非常に相性が良い。
UNESCO 憲章では、その前文と目的の中で、
『平和は、失われないためには、人類の知的及び精神的連帯の上に築かなければならない【中略】世界の遺産である図書、芸術作品並びに歴史及び科学の記念物の保存及び保護を確保し、且つ、関係諸国民に対して必要な国際条約を勧告すること。』
と宣言している。
UNESCO 憲章で述べられている活動理念は、地質資源の保全を重要視することから、地球科学者達の価値観と一致している。
そのため、2015 年にジオパークはUNESCO の正式なプログラムになった。
このように、地球科学者の視点から見ると、
ジオパークは地球科学と言う学問の上に成り立っていると言える。
日本ジオパークネットワークの視点
続いて、日本ジオパークネットワークの説明を見てみよう。
こちらの説明もGeo の説明から始まるのは共通している。
言葉として「ジオパーク」は、Geo(大地の・地球の) + Park(公園)と説明されることが多い。
しかし、この説明は漠然とし過ぎていて意味が捉えきれないだろう。
こうした漠然とした説明がなされるあたりに、
ジオパークの概念が人によって様々に受け止められて、
複雑になってしまう原因があるのかと思われる。
しかし、ジオと言う言葉はこうした曖昧な表現にすることによって、
汎用性が高くなり多くの団体に受け入れられている側面もある。
ジオパークネットワークを構成する団体は、
彼らの多くは、UNESCO がジオパークをプログラムとした後に活動に参加した。
当然、彼らは地質学を専門にしない。
そういった観点からこの説明を見ると、
日本ジオパーク委員会の説明にはあった、
"地質学"と言う言葉が日本ジオパークネットワークの説明には抜けている。
また、日本ジオパーク委員会の説明にはなかった、
"公園"と言う言葉が日本ジオパークネットワークの説明には入っている。
日本ジオパークネットワークが言うところのジオパークとは、
学術的な価値はひとまず置いておいて、地質を含む地域資源を有効活用して、地域の発展に活かしていこうと言う思いが込められているのである。
まとめ
この記事では、ジオパークプログラムを主導する2つの団体の意思について、
少し深堀りした。
何れにせよ、全ての事が地質の「保全・保護」をベースにしていると言う点では共通している事がわかる。
この「保全・保護」について、どの様な方針で活動しているか?が、
現状のジオパークの課題について考える鍵となる。
そこで、次回の記事では、ジオパークの「保全・保護」活動の方針について
解説していくことにしたい。
今日はここまで。
ジオパークって言うプログラムについて
はじめに
2000年代前半頃から、
地質学会や火山学会で「ジオパーク」と言うプログラムが1つの話題として取り上げられている。
僕はジオパークの発足当時、
大学院で火山に関する研究をしていた。
それから大体10年くらいが経って、
一般にもその活動が徐々に浸透してきたかと思う。
そして、僕の生き方や働き方にも紆余曲折があって、
ジオパークと関わり合うことになった。
そこで、
- 自分自身の備忘録のため
- ジオパークに初めて関わりを持つ人への情報発信のため
- ジオパークに現在関わりがあって、より詳しくジオパークについて知りたい人のため
- 多様な利害関係があるジオパークについての情報収集のため
ブログという形で、記事に残していこうかと思う。
初めての記事である、この記事ではジオパークとの関わり方についてまとめていこうかと思う。
「ジオパーク」の概念について
初めて人が「ジオパーク」に出会い、その概要を聞いたとき、人は何を思うだろうか?
おそらく、説明を聞いたところで、その概念は理解ができないだろう。
「ジオパーク」の概念は人によって様々なため複雑で、端的に表現する事は難しい。
多様な視点があり、それぞれの思惑がある。
その様な思惑を理解したいなら、一歩引いて、それぞれを俯瞰して眺めるのが良い。
この記事では、「ジオパーク」について、
以下のそれぞれ異なった2つの視点からの説明を紹介しよう。
- 日本ジオパーク委員会(日本ジオパーク委員会:Japan Geopark Committee。ジオパークの国内認定と、国内のジオパークを世界ジオパークに推薦する機関。)
- 日本ジオパークネットワーク(日本ジオパークネットワーク:Japanese Geoparks Network。国内のジオパークとジオパークをめざす地域をサポートし、ジオパークのネットワーク活動を運営・維持するNPO法人)
日本ジオパーク委員会によると、
「ジオパークは、地質学的重要性を有するサイトや景観が、保護・教育・持続可能な開発が一体となった概念によって管理された、単一の、統合された地理的領域です。
【中略】これらのジオサイトを教育やジオツアーなどの観光活動などに活かし、地域を元気にする活動や、そこに住む人たちに地域の素晴らしさを知ってもらう活動を行います。」
と、説明されている。
一方、日本ジオパークネットワークによると、
「ジオパークとは、『地球・大地(ジオ:Geo)』と『公園(パーク:Park)』とを組み合わせた言葉で、『大地の公園』を意味し、地球(ジオ)を学び、丸ごと楽しむことができる場所をいいます。」
と説明されている。
これらの説明を聞いたところで、
「言葉1つ1つの意味や背景がよくわからない。」
と、言うのが初めて「ジオパーク」に接する人の感想になるのではないだろうか。
概念がファジーで、とても解りにくい。
もっと端的に表現したいものだ。
そこで次回以降の記事では、
彼らが言う、言葉の意味と背景について、順を追って解説していくことにしたい。
今日はここまで。